て、苦力どもを指揮したんです。はじめ請負でやらさうと思つたところが、親方が金を払はないといふんで、みんな逃げちまつた。それでしかたがない、ひとりひとり、わしがぢかに金を払つた。追撃部隊が、橋の出来上るのを待つてるんですぜ。気が気ぢやない。まるで死に物狂ひです。わしがこれで現役なら金鵄勲章だ――さう言つて、参謀に褒められましたよ」
 私だつて、いくらでも褒めてあげたい。しかし、愚図愚図してゐると汽車に乗りおくれる。向ふむきの貨物列車が、すぐ眼の前で、煙を吐いてゐるのである。
 どの貨車も予約済みとのことで、○○部隊一行は機関車の上へ乗ることになつた。石炭と同居である。私は、隙をみて一つの貨車へ飛び乗つた。その車は大部分○○材料で埋まつてゐたが、隙間隙間に、兵隊さんが蹲んでゐた。
「まだ乗れるか?」
 外で声がする。
「もう乗れん乗れん、満員だ」
 誰かが応へる。
 ふと横をみると、女が一人、ぢつと坐つてゐる。和服の上に男物のレーンコートを着て膝に風呂敷を抱いてゐる。女は顔をあげた。
「おや、君は……」
「えへゝゝ」
「ひとり?」
 彼女は、笑顔のまゝうなづいた。
 保定城外の「野戦カフエ
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