、笑ひながら、
「あの年取つた方の王といふのは、以前張学良の部下で、陸軍大尉です。張の失脚後、職に離れてゐたのを、わしが拾ひ上げたのです。もう一人の若い方、賈といふのは、あれは、二十九軍の兵隊だつたのを、途中で逃げ出して、わしのところへ頼つて来たのです。あれの兄といふのをわしが北京で世話してゐたものだから……」
「へえ、すると、両方とも玄人ですね」
「なかなか役に立ちますよ。賈なんか、今でも敵の歩哨線を公然と通り抜けられるんですからね」
「なるほど、暗号も知つてるでせうからね」
「いま、第一線でわしの部下が働いてますがみんなよくやつてくれとるですよ。早う行つてやらにや、わしも心配でなあ」
「あなたの隊は、日本人はあなた方二人きりですか」
「いや、ほかに三四名ゐます。班長はやはり日本人でないといかんです」
堀内氏は、そこで、図嚢から眼薬を出して眼にさした。迫撃砲の破片でやられた傷がまだ完全になほつてゐないのださうである。
仮橋を渡る
朝早く眼がさめた。
私は中庭に出て、火事場のやうな光景を見た。家財道具を悉く運んだ後の、ガラクタと塵芥の堆積がそれである。
古手紙が散
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