」そのものはつひに見ずじまひである。が、たゞ、広義の「戦争」なるものを、いろいろな面でいろいろな距離から、そして、いろいろな現象のなかで、身を以て味ひ、幾分実感として心の一隅に残し得た。これをせめてもの収穫と考へ、なんとかして読者諸君に伝へたいと思ふのだが、さて、前にも述べた通り現在はまだその時機でないやうである。
なぜなら、戦さに勝つためには、国民は、ひたすら戦場の光景を美化することに努め、私もまたそれに努力することを任務と考へるからである。
そして、私は、戦争の最も華々しき、従つて人間及び人間群の最も気高き姿を、第一戦の砲火の下に見得ることを確信するものであるから、銃後の国民は、その緊張した心の状態を、全ニユースの先端に通はせて、共に祈りを捧げ、凱歌を奏すればよいのである。
例へば、後方勤務部隊の軍規厳正にして、日夜油断なく職責を果し、時としては、第一線部隊の労苦に劣らざる労苦に堪へ、時としては、決死隊と同様、生命の危険を物とせざる実例など、私はいくらでも挙げようと思へば挙げられるが、それは、国民一同が、所謂非常時局に処して、如何にそれぞれの持ち場で黙々と額に汗し、最後の勇気
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