連日の戦闘を眺め暮してゐるか、できれば、そばへ行つてその顔つきをのぞいてやりたい。
 それから、音にきく北京の都を、その風物を、ゆつくりとはいかぬまでも、しみじみと訪れたい。
 保定、大同、徳州などいふ城市も一見の価値があらう。
 石家荘とやらはもう落ちてゐるかどうか。
 虎列剌の予防注射をすませた。
 十一日の正午神戸を出る塘沽行の船に、もう部屋がとつてある。(十月十日夜)


 いよいよ報告をつゞらねばならぬ。が、私は一切の興奮と御座なりを避け、事実を観たまゝに語りたい。ところが、実を言ふと、第一に、暇が十分でなかつたからでもあるが、予定の行動を取ることができず、第二に、少しは何かを観たとは思ふが、いざそれを筆にするとなると、どうしても、今書くのは早過ぎるといふ気がし、それも自分のためばかりではなく、印象がすべて厳粛な歴史の批判を根柢とせねばならぬ関係から、主観的な物言ひは慎まねばならぬといふ、甚だ厄介な責任感にしばられてしまひ、平凡な記事でお茶を濁すことになりさうだ。
 殊にもうひと息といふところで、なんとしても時間の都合がつかず、それに、身心ともに疲労を覚えたので、所謂、「戦闘
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