若し北支に派遣されたとしたら、どういふところを一番看て来たいと思ふか?」
 彼等はめいめいに面白い、或は平凡な意見を吐いたが、左の二項だけは、異口同音に、殆ど全部がこれをあげた。そのひとつはわが軍奮戦の実況、もうひとつは日本軍を迎へる支那民衆の表情。
 前者は、当り前のことゝして別に取りたてゝ云はないものもあつたが、後者は、これこそ、いろいろなニユアンスを含めて例外なく知りたがつてゐる事実であることがわかつた。
 そこで、私が痛切に感じたことは、新聞の報道が如何に統制されてゐても、その統制され方によつては、銃後の国民は却て報道の裏を知りたがるものだといふことである。
 さういふ私自身、決してその裏をのぞかうなどといふ好奇心はなく、また、そんな裏があらうとは信じないが、宛も秘すべき裏があるかの如き印象を与へる一面的な誇張粉飾は、将来、報道者も慎まなければならぬと思ふ。民衆は案外、ものを正しく感じ、意味を深く察する能力をもつことを銘記すべきであり、早く云へば、それほど御心配には及ばぬのである。

 私は、外国の観戦武官(現在さういふものがあるかどうか知らぬ)といふものが、どんな顔をしてこの
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