はない。
 沿線は一面の棉の畑である。農夫の姿もところどころに見える。
 例の粘土色の平野が何処までも続いてゐて、森も丘もない。たゞ、まばらな立木が、ところどころに生えてゐるだけである。そのなかに美しく黄ばんだ葉がみえるのはなんであらうか?
 不思議なことに、針葉樹といふものがまるで見当らない。その上、どの樹も枝ぶりが同じやうで、何れもやはらかく垂れさがつてゐる。楊柳、アカシヤ、楡、たまに部落の近くにはナツメなどあるさうだが、遠くからはその見分けはつかぬ。季節のせゐもあらうが、全体の緑は、白つぽくくすみ、紺碧の空のなかへ、大地の色が沁み込んでゐるやうに見える。
 なんの変化も、なんの刺激もない。自然は単調そのものだとは云へる。しかし、それでゐて、決して、荒涼たる眺めではない。たゞ巨きく、静かなのである。
 望都といふ停車場に停つた。
 守備兵の間を駈け抜け、梨売りが列車めがけてたかつて来る。五銭で十個、安いには安い。
「どら、ひとつ味をみてやる」
 手を出す兵隊があると、梨売りは、油断をしない。
 私は水筒に茶を入れることを忘れたので、早速それを買つた。今迄食つたどんな梨とも似てゐない
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