、自転車を走らせてくれたからであつた。
 擬装した○○機関車が無蓋貨車をゆるゆると牽いて行くのである。
 貨車は寿司詰めであるが、周りの兵隊さんたちはみんな陽気だ。
 快晴、微風、満腹。そして、新楽までは、平時なら三時間といふのだが、今日はどれくらゐかゝるか?

     前線へ

 堀内氏は北京から連れて来た三人の部下と一緒に乗り込んでゐる。私は自分のトランクを椅子の代りにして無蓋貨車の一隅に陣取つたので、展望は自由であつた。
 便乗組のわれわれ以外は、多くて五十名、少なければたつた一人といふ風に、別々の部隊に属する兵隊さんたちの、云はゞ混合列車であることがわかつた。後方から特別の任務を帯びて前線へ派遣されるものもあり、留守隊から補充として第一線部隊へ編入されたものもあり、負傷とか病気とかのためにしばらく野戦病院にはひつてゐたのが、やつと全快して原隊へ復帰するといふものも混つてゐる。従つて、兵科もいろいろ、出身地もまちまちである。初めて戦線に出るのだといふ若い現役兵もゐれば、もう天津以来弾丸の下をなんべんも潜つたといふ古つはものもゐる。将校も一人二人はゐるらしいが、別に指揮官としてゞ
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