附いて来てもらつても……」
「いや、規則は規則ですから、お気の毒ですが、衛兵としては、守則に従ふ以外、何等の権能もありません」
司令は、顎髯を蓄へた年輩四十五六と覚しき老伍長である。
たとへ日本軍の将校と雖も、巡察以外は入れないと云はれてみれば、止むを得ない。
私は、井河氏に断りを云はねばならぬ。かくかくしかじかの理由で今夜は城外に一泊するが、明朝は汽車が早く出るらしいから、挨拶に伺へぬかも知れぬ。荷物を誰かに纏めさして明朝七時までに停車場へ届けて欲しいと、一筆名刺に認めて、そこにゐるお巡りさんに局へ持つて行つてくれと頼んだ。
が、私は、こゝでも、内心、不便なことだとは思ひながら、一方軍律の厳として犯し難きを頼もしく感じ、衛兵に一礼して、堀内氏と共にもと来た道を引つ返した。
私たちは、この時刻に、もはや万策つきて、さつきの家へ泊めてもらふことにした。幸ひ一と部屋空いてゐるといふので、五十嵐君の勧めるまゝにアンペラの上に毛布一枚にくるまり、身心ともに硬ばらせて、うつらうつら、妙に寒々とした一夜を明かした。
翌朝、いよいよ汽車が出るといふ瞬間、私の荷物はやつと届いた。五十嵐君が
前へ
次へ
全148ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング