行きます。それから、命令でどつちへ出掛けるか……」
「僕も、行けるところまで行きますよ。連れてつて下さい」
「わしについてゐさへしたら安心です。これから先はあぶないと思つたら、教へてあげます」
さうだらう。かういふ戦場では、どこが危いといふことを知ることさへ、素人にはむづかしいのである。
夜が更けた。
私は城内に帰らねばならぬ。堀内氏も警察局に用があるといふので、一緒にこの家を出た。
城門にさしかゝると、歩哨が誰何《すいか》をした。戦地では、この「誰か?」に一度で返事をしないと、命があぶないのである。
「文芸春秋社特派員」
云つてしまつて長すぎたなと思つた。「従軍記者」でよかつたのだ。
銃剣がぴかりとして、私たちは衛兵所の前に立つた。
「通過証は?」
司令が訊ねた。
「誰のです?」
「城内へはひるのには○○○○官の通過許可証がなけれや駄目だ」
「そいつは知りませんでした。昨夜はそんなことなかつたんでせう?」
「今日から命令が出た」
そいつは弱つた。○○○○官だつて、もう寝てゐるだらう。
「警察局へ帰るんですが、それでもいけませんか。お巡りさんがそこにゐますから、なんなら
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