な構へである。こゝで覚えた言葉を真似れば、これこそ、一個の「野戦デパート」に違ひない。
お茶のご馳走になる。
この時、不意に、一大爆音が窓硝子をビリビリとふるはせた。
「なんでせう」
私は訊ねた。
五十嵐君は外へ飛び出した。私も続いた。さつぱりわからない。停車場の方向に煙が濛々とあがつてゐる。
人々が右往左往してゐる。
が、そのうちに誰云ふとなく、人夫が運搬中の爆弾を取落したのだといふ。空から落ちて来たのではないらしい。
私たちは家の中にはひつた。
ところが、しばらくすると、一人の支那少年が泣きべそをかきながら、五十嵐君のそばへやつて来て、なにやら、口籠りながら喋りまくつた。
この話は、かういふ風に書くとあまり気もちのいゝ話ではない。しかし、戦場挿話としては是非なくてはならぬものゝやうに思ふ。
少年の云ふところはかうだ。
「今、父親が死にさうになつてゐる。先生、早く来て下さい」
私たちはその少年の父親が今の爆弾で大怪我をしたものと直感した。
五十嵐君は駈け出して行つた。といふのは、それがこの家の大家なのである。
やがて五十嵐君は悄然として帰つて来た。
「もう駄
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