う、あの停車場の前の通りで、只今煙草屋さんがございますな、あの右隣りに恰好な家が空いてをりますんですが……」
「家主はわかりましたか?」
「へ? 家主はこれから捜しますんで……」
「ぢや、家主の承諾を得たら、家賃をきめてあげませう」
「どうぞ、なにぶんよろしく……。それからこのお神さんですがな、一緒に出て参つたんですが、この方は、なにか簡単な食堂のやうなものをやりたいと云ふんですが、私は、それより、ドラ焼のやうなもんはどうかと勧めてゐるんです。丁度道具を二つばかり用意して参りましたからな」
それをやはり傍で聞いてゐた五十嵐君は、すぐに膝を乗り出し、
「それやいゝ。私が日に何百円でも買ひますよ。兵隊さんにうんと安く売るんですよ。これや大きな商売だ」
「さやうですか。ありがたい。なあ、お神さん、ほれ見い、云はんこつちやない。わしの考へはどうぢや。お前さん、運が向いて来た、ほやろ」
私は、城外の停車場附近に日本人のコロニイが出来てゐると聞いて、早速そこへ出掛けて行つた。
なるほど、これが戦場の跡に早くも種蒔かれた伸び行く日本の生活である。健かに、豊かに実れ!
流石に、五十嵐組は、大き
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