た黄ろい実が刺のある枝に生《な》つてゐる。同行のお巡りさんが、それをひとつもいで口の中へ抛り込んでみせる。食べられるから食べてみろと私に勧めるらしかつた。私はたゞ、その小枝を一枝折つて図嚢の中へしまつた。
さつきからわれわれ一行の先導をしてゐる恰幅のいゝ老人が、帰りがけに、その住居でもあらうか、ある建物の前へ来ると、切《しき》りに寄つて行けといふ身振りをする。門の中を何気なくのぞくと、蝶々のやうに舞ひ戯れてゐる一群の少女たちの姿が眼に映つた。私はおやと思つた。
これは、迂闊ながら、歌妓の家であつた。つまり、芸者屋兼待合である。
井河氏の説明によると、こゝらは、この町で最も高級な部類に属し、今の老人は、日本で云へば三業組合の頭といふやうな役柄だとのこと。それでゐて、これらの歌妓と共に宴席に出れば、忽ち、楽人となつて胡弓を弾くのださうである。
戦塵遠ざかつて、平和の歌の第一声は、或はこのへんから聞えだすのであらうか?
警察局の一室に支那兵の遺棄した武器が積みあげてあつたので、私は、初めて青竜刀なるものを手に取つてみた。こんな重いものをどうして使ふのかと、二三度斬りおろす真似をする
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