色と云へば、さつきから日本の女の着物がちらついてはゐるが、気のせゐかどれもこれも曰くありげな風体に見え、正視するに忍びない。こんなところで感傷的になるのはをかしいが、何れは慣れつこになるであらう。
私は、将校たちと別れて、前の方の車に乗つた。
これも内地から派遣されたばかりだといふ大朝東朝の記者諸君と一緒になつた。
従軍記者も二三個月第一線にくつついて歩くと、何れもへとへとになるらしいといふ話など出る。さもあらうと思ふ。
汽車は最小速力で進む。沿道は荒寥たる不毛地のやうに見えるが、それは土の色がまつたく違ふからで、到るところ、棉、唐もろこし、白菜など作つてあるのが、今年は手入れもできぬといふ状態にあることが察せられた。
線路の傍らに一台の機関車が顛覆したまゝ風雨にさらされ、赤く錆びついてゐるのが見えた。
電柱がひと並び倒されてゐる。
柳であらうか、見渡す限りの平野に、ところどころ、こんもりと茂つた樹が立ち並んでゐる。人影はほとんどない。
天津に着いたのは午後五時、早速、軍司令部へ自動車を走らせる。
市中は、これこそ殺気立つてゐると思はれたが、それも停車場附近で人力車夫
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