軍隊だけです。人民は苦しい」
 Fは、しかし、もとは軍人ださうである。しまひに、日本の士官学校出身だといふことまで告白した。
「北支那はどうです? 大学なんか復活するでせうか?」
「大学はいりません。共産党の学生をつくつてもなんにもならない」
 話は簡単だ。
 太沽で、風のために一昼夜上陸が遅れ、しびれを切らしたわれわれは、ランチの姿をみつけると、思はず躍り上つた。
 ○○艦が一隻、沖を走つてゐる。

     ○○部隊長

 ランチは、白河を溯つて、塘沽に向つた。粘土色の水が陸との界を曖昧にしてゐる。
 白河といふ名前の由来をFが話して聴かせた。
「一般には、この河が九十九曲り曲つてゐるので、百から一を引いた、即ち白河と名がついたやうに云はれてゐるが、実は、それはこじつけで、冬になると一面に凍つて白くなるところからさういふ名が出たのだ」
 それはどつちでもいゝが、このへんに来て驚くことは、水上陸上ともに、英国旗のあちこちに翻つてゐることである。
 塘沽では、S中佐その他と共に同地の○○部隊本部を訪れた。部隊長がHといふ、これも同期生だといふことがわかつたからである。
「よう、やつて来
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