の他、船でわりに話をし合つたのは支那人のFである。
この人は上海の商人だといふことだが、日本語も相当でき、言葉のはしばしで、所謂、事変後の工作に乗り出さうとしてゐる有力な親日家だといふことが察せられた。
こんなことを何処まで書いていゝか、むろん大事なことは本人が漏らしはすまいと思ふから、こつちは遠慮なく聞いたまゝを書く。
彼は云ふ。
「日本の支那通で支那のことわかつてゐるものごく少い。支那にいろんな支那ある。支那人にいろんな支那人ある。いつしよにする、よくない」
私は聴いてゐる。が、時々こんな質問をしてみる。
「あなたは支那人として、今度の日本の行動を全然間違つてゐないと思ふ側の人ですか?」
「さう、間違つてゐない。少し遅いくらゐです。もう二年たつたら、駄目、効き目ない」
「なぜ?」
「支那強くなつて、負かすのむづかしい」
「待つて下さい。それぢや、あなたは、日本の行動を是認するばかりでなく、支那が負けることを望んでゐるんですね」
「蒋さん、負けるのかまはない。国民党ある間支那幸福になりません」
「でも、たつた今、あなたは、もう二年たつと支那は強くなりすぎると云ひましたね」
「
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