ランドは、「メルシイ、メルシイ」と云つてYの手を握つた。
さつきから、この壮快な雰囲気のなかで、酒を飲まずに始終微笑をふくんでゐた日本の一大佐は、傍らの米国に向つて訊ねた。
「どうです、日本の将校は元気でせう」
すると、米国は、なんでも呑み込んでゐるといふ風に、
「いや米国でもおなじです。戦地に向ふ前の米国将校と来たら、こんなことぢやすみません」
大佐は、そこで、鷹揚に、天井を仰いで呵呵大笑した。
私は、Sから盃を受けながら問うた。
「君は、どの方面へ行くの?」
「わからん○○○へ行けと云ふ命令を受けたゞけで、その先は聞いてない」
「新しい部下を渡されるわけだね」
「うん、一日一緒にゐれば新しいも古いもないさ。そこが軍隊の有りがたいところだ。なあ、さうだらう」
「さうだ」
と、私は、彼の眼をぢつと見つめた。――いゝ隊長だな、と感じた。
親日家
船が朝鮮沖にさしかゝつた時、私宛の無線が配達された。
「ブジゴコウカイヲイノルマスヲ」
大連にゐる弟からである。どうして私の旅行を知つたか? もう十五年も会はずにゐる彼のことを思ふと、帰りに寄れたら寄つてみたい。
そ
前へ
次へ
全148ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング