私の方へ歩み寄り、
「しばらく……。私、Yであります。幼年学校でお世話になりました」
 さう云へば、私が三年の時、このYは一年生ででもあつたのだらう。
「今度は隊長ですか。今迄は?」
「騎兵学校にをりました。さつきから、どうもさうぢやないかと思つて……やつぱり変つてをられませんな」
 上陸の前夜、食堂で、何時の間にか将校たちの酒宴が開かれてゐた。
 外国武官連も、その時はじめて彼等の仲間入りをした。
 さながら聯隊の将校集会所であつた。
 ボーイは当番の如く右往左往した。
 米国中佐は流暢な日本語で、
「××参謀長閣下には以前大へん御厄介になりました。お酒ですか? いや、私はあんまり頂けませんです」
 Yが高らかに詩吟をやりだした。
 英国中尉に木曾節を歌へと責めてゐるのはSだ。たうとう自分でやり出した。
 と、だしぬけに、Yはポーランドに握手を求めながら、
「君の国はなかなかよろしい。日本の味方だらう」
 と、それを私に通訳しろである。
 私はペルウとポーランドを彼は間違へてゐはせぬかと思つたが、そんなことはまあいい。英米の方へ五分の注意を払ひながら、その意味を伝へてやつた。
 ポー
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