切れてゐる。遠く山腹を這ひあがる姿は、奇観でないこともないが、私の眼は、もうさういふものにいつか慣れてしまつた。
 それよりも、一歩満洲へ踏み込んだ瞬間、私を微笑させたのは、畑の真ん中を、黒い一頭の豚がちよこちよこと走つてゐたことである。
 北支の旅行を通じて、生きてゐる豚をはじめて此処でみたといふのは、ちよつと皮肉な気がしたからである。
 また夜が来た。
 闇の中に、次第に浮ぶ灯の海は、金州であつた。ネオンサインもあちこちに見えて、私は思はず身ぶるひをした。
 もう日本へ帰つたのも同様である。私の役目はこれですんだのであらうか?
 大連で弟とその一家のものたちに会ひ、大場鎮陥落の提灯行列に賑ふ夜の街を歩いて、私は、この旅行の無意義でなかつたことをしみじみ感じた。
 が、最後に門司までの船の中で、私は是非読者諸君に告げておかねばならぬ情景を目撃した。
 それは、食堂で夕食の最中である。
 一団の日本人が酒杯をあげて大いに戦勝気分を漂はせてゐたが、忽ち、そのうちの一人が、すぐ後ろの席にゐる白人の男女に、何やら怪しげな調子でからみつき、しまひに、その女の肩へ手をかけようとした。女は、憤然と
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