して起ち上つた。連れの男は、その女をかばふやうにして連れ去つた。件の日本紳士は、重心を失つて尻もちをついた。
「Sale type!」
 私の耳へ、鋭く、この一言が飛び込んで来た。今の女が、吐きだすやうに云つたのである。
 海は静かであつた。
 馬関海峡はしかし秋雨に煙つて、晴天十日の大陸は、もはや私の記憶のなかに遠ざかつて行つた。



底本:「岸田國士全集23」岩波書店
   1990(平成2)年12月7日発行
底本の親本:「北支物情」白水社
   1938(昭和13)年5月1日発行
初出:「文芸春秋 第十五巻第十四号」
   1937(昭和12)年11月1日発行
   「文芸春秋 第十五巻第十六号」
   1937(昭和12)年12月1日発行
   「文芸春秋 第十六巻第一号」
   1938(昭和13)年1月1日発行
   「文芸春秋 第十六巻第二号」
   1938(昭和13)年2月1日発行
   「文芸春秋 第十六巻第三号(事変第六増刊)」
   1938(昭和13)年2月18日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年11月12日作成
青空文庫作成ファイル:

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