う?
 時として冷酷たらんとする観察者も、また、苦《にが》さを苦さとして永く記憶する瞬間があるのである。

     北京を去る

 予定の日数は余すところ幾日もない。
 塘沽から出る船を待つてゐるより、大連へ廻つた方がいくらか早いやうなので、弟に会ふ便宜もあり、かたがたさうすることに決めて、寝台車を予約した。
「もう一度是非来ます。これでは北京を観たとは云へますまい。なにか、非常に心を捉へるものがあるのはたしかです。好きになつたらたまらないだらうと思ふ。早く云へば、生活のダイメンシヨンといふやうなものが、人間の本性にぴつたり合つてゐるといふ感じがするのだが、僕には、それ以上の分析はできません」
 私はO氏にそんなことを云つた。
 事実、かういふ都会が世界に一つや二つ残つてゐてもいゝと思ふ。機械文明が取りつゝあるコースとは別に、いくらか頽廃の色は帯びながらなほこのやうにある種の秩序と豊かさとを保ちつゞける文化の形態といふものは、さうざらにはないのである。
 人類の進歩のために、かういふものは役に立たぬといふ考へ方もうなづけないことはないが、伝統の墨守から生じた潤ひのない形式主義とはおの
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