と云はうと、この風雲の下で私と銭氏との立場は明かに違つてゐるのである。万が一、彼の眼に、戦捷国民の思ひあがつたひとつの顔が映つたとしたら、私は穴にでもはひりたい。
代表的な北京料理を食べたいといふと、O氏は、それなら、食通のW君を呼んで献立の註文をしてもらはうと云ふ。それほどのこともあるまいと思つたが、W君といふのは日本に留学してゐたお医者さんで、気骨のあるさつぱりした人物だといふから、話ができればそれも面白からう。
料理屋の名は忘れた。所謂「うまいもの屋」といふに応はしい小さな構への、体裁お構ひなしといふ店である。屏風で仕切つた奥のテーブルに着く。
W君はやゝ遅れてはひつて来る。
ざつくばらんな調子で、いきなり現在の心境を語る。
「しかし、いま北京にゐるといふだけで、僕などは、南からは睨まれてゐるでせう。うつかり上海へでも行かうもんなら、首がなくなるさ。北京も変るでせうね。どう変るか。北京人は北京が好きなんだから、そのつもりで、あんまり滅茶なことはやらないでほしい。僕は政治なんかに興味はない。だから、まだいゝ、かうして平気でゐられるんです。こゝまでは民衆も黙つてついて来るだら
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