方春登は戦功を建て、平西侯に封ぜられ、春料も官を得て、兄弟揃つて故郷に錦を飾る。宋氏は春登に、彼の母も妻も既に死んだといふ。断腸の思ひで春登は母の霊前に痛哭する。此処の唱は中々聴ける所である。至親を失つた春登は失望落胆、出仕の意なく、隠遁せんと決心する。その前に故人の冥福の為に我家の墓前で蓆棚を設け七日間の施食をやる。其時既に遠地に流離してゐる趙景棠とその姑は、神力に助けられ、蓆棚の前へ来て、何も知らずに乞食する。食べてゐる中に、墓前にある槐の木を見て我が家の祖墓なるを知り、吃驚して碗を落す。その為に中軍に酷く叱られるが、中軍は貧民をいぢめたかど[#「かど」に傍点]で却て春登に罰せられる。さて春登が件の乞食を呼んで事情を聞いてみると、どうも自分の妻君らしい。終に我が妻の左手に赤いあざのあつた事を思出し、乞食の手を見せて貰ふ。間違ひない。それで愈々名乗つて母親にも邂逅する。珠痕記なる名前を得た所以である。この夫妻相認の場が此芝居の絶頂で、譚富英と程硯秋とのコンビは得難い絶唱である。
再び母と妻を得た春登は叔母を呼んで問ひ糾すが、中々泥を吐かない。おまけに、「自分に若しそんな事があつたら
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