、次に紹介する「珠痕記」といふ芝居のなかで、春登の妻に扮し、遺憾なくその才色を示したやうに思つた。
 支那芝居の面白さは、N氏ぐらゐにならないと、外国人には隅々までわからぬことは当然と思はれるが、とにかく、かういふ種類の芝居を今もつて無上のものと心得てゐるところ、支那の好みが窺はれて、それだけでも大いに参考になつた。
 試みに、多分N氏の筆になるものらしい当夜の番附にのつてゐる上記「珠痕記」の筋書を写してみる。

 人物
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朱春登       老生 譚富英
趙景棠(春登の妻) 青衣 程硯秋
中軍(春登の部下) 浄  侯喜瑞
朱春登の母     老旦 文亮臣
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 山東の人朱春登は叔父に代つて出征し、老母と妻君を家に置いて、十数年帰つて来ない。其間に叔父は物故し、従弟の春料は科挙の為め京都に流寓する。それで春登の叔母宋氏は家政を壟断し、春登からの音信を没収して、趙氏には春登が既に戦死したと偽り、自分の甥宋成と再婚するやうに迫る。趙氏が肯じないので姑と一緒に追出される。二人は初め羊を飼つて糊口してゐたが、終にそれも出来なくなつて乞食になる。
 一
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