英語がよくわからないけれども、この女の表情はなかなか豊かで、こんなに人のみてゐるところで女を裸にしていゝのかといふやうなことを喋り、子供が泣きだすと顔をしかめ、可哀さうにと、これも眼顔で私に同感を求める。
 私は黙つてうなづき、かうしてゐてはきりがないので、早くすまして貰はうと自分もシヤツの釦を外しだした。で、試みに、その時フランス語で、
「さあ、マドモアゼル、あなたの順番がもうぢき来ますよ」
 と云つてみた。
 彼女は、何を思つたか、大きく眼を見開き、これは敵はんといふ顔をし、こそこそと部屋を逃げ出して行つた。
 その後、彼女だけは、私に会へば挨拶をした。生憎フランス語はこつちの英語ほど覚束ないので、こつちが「モーニング」と云へば向ふは、「ボン・ジユール」と云ふのがせいぜいであつた。
 しかし、いよいよ上陸といふ前の晩、喫煙室で、彼女の連れの一人が、私に碁の打ち方を教へろとだしぬけに云ひ出した。
 私は、本式の碁はあなた方にむづかしいから、五目並べといふ別のゲームを教へようと答へ、二人で三十分ほど五目並べをやつた。すると、そこへほかの三人が集つて来た。一番年寄りの如何にも女学校の舎監
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