ゐる。隣には、比叡山の従軍僧、向ひにはT書記生と支那人Fといふあんばいである。
日本の将校連は将校連で、別のテーブルを占拠してゐる。外国武官の一行は、また別のテーブル、但しシヤムだけは特別の一卓が与へられてゐる。婦人の乗客が四人、何れも米国人、これがまた独立陣を張つてゐる。天津、北京から避難して来た女学校の先生たちで、もう大丈夫だからそれぞれ任地へ帰るのださうだ。
何か面白い話が聞き出せさうだが、おいそれと誂へ向きにジヤアナリストの精神を発揮するわけにも行かず、始終隙をうかゞつてゐたにも拘はらず、遂に絶好の機会を捉へ損つた。
ところが、二日目の日、コレラの予防注射をまだしてないものは二等の食堂へ集れといふ布令が出て、私も三分の一だけ残してあるので、注射液をもつて出掛けて行くと、もうそこには半裸体の群集が押し寄せてゐた。
私は、順番がなかなか来さうもないので、何時でも裸になれる用意をして一隅のベンチに腰かけてゐると、そこへ、かの米国婦人の一人がのつそりはひつて来た。
どうするかと思つて見てゐると、つかつかと私のそばへ来て、
「背中へするのか?」
と訊ねる。
「イエス」
私は
前へ
次へ
全148ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング