離れてゐるからだ。日本人ならば歯を食ひしばるであらうところを、彼等は、ポカンと口をあけてゐるのである。日本人なら、すぐに後を向いて舌を出すところを、彼等は、夜、寝床へはひつてからででもなければ、それをやらないだらう。
彼等が、日本軍の勝利をどう思つてゐるかといふこと、これは、さう一般的な問題として取りあげる必要はない。たゞ、支那を負かした日本が、将来、如何なる態度で、北支民衆の上にのぞむかといふ、そのこと自身が、彼等を永久の味方にするか敵にするかの分れ目だと思ふ。
彼等に民族意識や国家観念がないといふ説も極端だし、彼等が抗敵精神に燃えてゐるといふ見方も度が過ぎるのではないか。すべては、日本人の標準で推しはかることは誤りのもとである。
欧洲のやうなところでも、つまり、あれほど近代国家としての発達を遂げた国々でも、さういふ点になると、案外、矛盾した現象を屡々見せつけることは、いろんな物の本にも現れてゐるのである。
モオパツサンの短篇など読むと、普仏戦争を題材にしたものが多いなかに、愛国精神と超国境的親和とが、同じ環境、同じ人物のなかに微妙な混りあひを示してゐることを誰でも感じるであ
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