らう。それは、或る場合には当然であるが、ある場合には、日本人の考へ及ばないやうな奇怪な場面をも繰りひろげるのである。
欧米人が戦闘員と非戦闘員の区別をあんなにやかましく云ひたてるのは、やはり、日本的感情ではちよつと始末のできないものがあるのであらう。
天津から北京への汽車は、平時と違つて、今は日に一度、それも、六時間たつぷり見ておかねばならぬ。
前線へ出るときとはまた違つた興奮を以て、私は、北京といふ「万人渇仰の古都」を胸に描いた。
乗客は日本人が大部分を占めてゐるやうに思はれた。しかし、駅々のプラツトフオームを見ると、大きな風呂敷包をかついだ支那人の数も相当に多い。
満鉄の経営にうつつてから、この列車にも満洲人のボーイが乗り込み、日本語があまり達者なので私ははじめ日本人だとばかり思ひ込んでゐた。
北京に近づくに従ひ、沿道の眺めは却つて物寂しく、秋の色が次第に深くなつていくやうに思はれた。それにしても、木の葉はまだ枝をはなれず、黄一色の濃淡に染めわけられた大自然は、巧まない絵のやうに奥床しい。
が、いよいよ、北京の城門が見え、列車が駅の構内へ突入すると、私は、一種名状しが
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