かが物を書く必要はないぢやないか」
「さういふ議論も成立つね。しかし、おれは、何も、今迄の人がやらなかつたことをやらうと思つてゐやしない。おれの作品はおれから始まつておれに終る、さういふ一つの歴史しかもつてゐないと見てくれたらどうだ。文学をその時代的価値ばかりで判断するのは少し可哀さうぢやないか」
「だからさ、君がもつと立派なものを書いてゐれば、それでもいいさ。立派なものの亜流だよ。おれたちが葬つてしまひたいのは」
「立派なものなら旧くつてもいいのか」
「いいさ、ただ、おれたちに用はないだけの話さ。君たちの書く作品のやうに、あたりの邪魔をしないだけでも、まだいいよ」
「冗談云つちやいけない。君達の邪魔をするのは、同じ旧いもので、佳いものなんだよ。その意味で、僕達の書くものが下らないものなら、君たちの作品を、却つて目立たせることに役立つ筈だ」
「さうも云へるね。ぢや、君達は僕たちの恩人か」
「まあ、そんな処らしいな」
かうなると、論戦にもなにもならなくなるが、文学は、自分一人で坐る座敷ではないのだから、さう肱を張つて啀み合ふ必要はないぢやないか。
ただ困るのは、文学とは「自分の主張す
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