共に、救ひ難きまでも憐むべきものであることを知つた。その憐みは、寛大な愛の萌しにはならなかつたが、少くともあなたを単なる憎しみの心から救つたに違ひない。「自分も人間でありながら、その人間がわたしを人間嫌ひにする」さう云ふあなたの言葉に偽りのあらう筈はない。しかし、そこには、「人間が嫌ひ」であることを誇る気持は毛頭含まれてゐない。寧ろ「人間が嫌ひ」であることを悲しむ、その甘苦い涙こそ、あなたの有つてゐる詩なのだ。「裏面の詩」なのだ。その詩こそ、あなたの芸術を浪漫的ユモリスムから引き離して、切々藹々たる人間味の中に浸し、古典的自然主義芸術の伝統に結びつけたのだ。
「わたしは自然によらなければ書かない。わたしは生きた尨《むく》犬の背中でペンを拭ふ」とあなたは言つた。あなたはあなたの想像力に信頼しない。此の点で立派に浪漫派と絶縁してゐる。あなたは一々の事物について、その特質を捉へなければ満足しない。此の点で所謂古典主義の拘束を受けてゐない。あなたは言はなければならないことを言ふために、言ひたいことでも言はないことがある。まして言つても言はなくてもいゝやうなことは決して言はない。此の点で所謂写実
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