の実情からすれば、この二つの部門は、共通な領域を非常に多くもち、基礎知識としては是非とも双方の志望者に与へておかなければならぬ課目が寧ろ大部分を占めてをり、且つ、それぞれ一方の道に進むものでも、他の一方の根本的概念はどうしても頭に入れておく必要があるからである。しかし、必修選択科目として、一層専門的な若干の講義及び実習を課し、演劇は演劇、映画は映画の専攻ができるやうな仕組になつてゐる。
 アカデミイとしての理想からはまだまだ遠いには違ひないが、第一着手として、比較的整つた形の研究所にはなると思ふし、経費の点からいつても、個人としては固より、企業会社や特殊の劇団では、これだけの内容を充実させることは実際困難なことは確である。これを独立したものとみれば、年額二万円近い経常費がかゝるし、またいくら金をかけたところで、お義理や形式的に顔をみせる講師ばかりを揃へたのではなんにもならない。この点、今度の企ては、私自身の抱負はもちろん、協力を仰ぐ人達の積極的参加によつて、所期の目的を達成し得るものと確信してゐる。

 新設の演劇映画科は、既設の文芸科の一部門とし、全体共通科目としては、哲学、論理、心理、美学、作文修辞学、倫理、外国語等専門学校令によるものの外、文学概論、日本文学史、日本現代文学概観、日本文化研究、世界文芸思潮史、外国作家研究等の一般文学的教養としての高等知識を授け、更に専門学としては日本及び西洋演劇史、演劇本質論、近代劇論、科白原論、視覚芸術論、音楽解説、演出研究、演技論及び各演技実習、戯曲研究、舞台美術研究等の科目を置き、以上は演劇映画両科共通とし、選択必修課目としては、演劇専攻者のためには日本新劇史、演出論、演劇論史、舞台機構論、戯曲論を、映画専攻者のためには、映画史、映画芸術論、映画技術論、映画製作機構研究、シナリオ研究、映画監督術等を聴講させることにした。
 外国語は、英語を必修とし、仏語を随意選択とする。
 映画の専攻科目は、将来、経費の許す限り増設するつもりであるが、それまでは、特別講義として、随時に、必要な知識を与へる計画である。
 勿論、この学校を出ただけで、専門技術家としての資格を得ることは期待できないが、実地の研究にはいる基礎ができてゐるといふことは、将来、どれだけの強味であるかわからない。なほ、卒業後の需要範囲といふことについていへば、これは
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