幕間
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)上気《のぼ》せる
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妙なことを云ふやうですが、僕は、芝居を観に行くたんびに、「劇場の空気」といひますか、あの幕間の数分間が醸しだす見物席乃至廊下の雰囲気を、そんなに有難いものだとは思はないのです。出来ることなら、たゞ一人、親しい連れでもあれば、その連れと二人でもいゝ、どこか、人も見えず、人にも見られないやうな一隅を見つけ出して、次の幕があくまで、今見たばかりの舞台を、もう一度静かに、頭の中で繰り返して見たい、さういふ慾望を制し得ないのです。
これは甚だ間違つた了見かも知れません。間違つた了見と云へば、僕は先年、イタリイの旅を終つてパリに帰つた時、印象はと聞かれて或る友人に答へた言葉が、「イタリイにイタリイ人がゐなかつたら、さぞよからう」
僕は、今、「芝居を観る処が劇場でなかつたら、さぞよからう」と、それほど皮肉なつもりもなく云ひ得るやうな気がします。
これは日本でも西洋でも同じことだと思ひますが、芝居小屋、即ち劇場といふ処は、或る意味で一つの社交機関と見做されてゐる。或ひは、いろいろの点から
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