味で変つて来たのだと思ひました。西洋風になつて来たかといへば、さうでもない。さればと云つて、必ずしも僕の理想に近くなつて来たといふのでもない。
不景気のせいでもありませうが、それから、近頃の芝居が下落したせいもありませうが、日本の見物は、どうも面白くなささうな顔をしてゐますね。さういふ顔が、あの窮屈な廊下を、無意味に行つたり来たりしてゐる。処々に、三々五々、「芝居も毎日ぢや飽きるね」といふやうな笑ひ方で、相手の顔よりも擦れ違ふ抜け襟の中に眼を落しながら、無性に敷島を吹かしてゐる中年以下の紳士連を見ることは見ます。
それよりも、座席と便所と売店との間を、廿日鼠の如く、無表情にキリキリ舞ひをして歩く美装の淑女は、一体、あれや、なんですか。
またフランスの芝居に戻りますが、「芝居は笑ひに行くところ」なるモツトオがあるにしても、パリの見物は概して、開幕中のみならず、幕間をさへ陽気にする術を心得てゐるらしく思はれます。
「謹厳第一」は必ずしも幕間を愉快にする信条ではありますまい。
幕が開いてゐるうちは静かでも、幕が下りた瞬間、破れるやうな拍手に交つて、見物席の隅々に起るあの「うれしキ
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