と政治家と教師などが勲章を貰ふ。勲章を持つてゐても、仏蘭西ほど幅が利かぬとみえて、平服に略綬をつけてゐる紳士はあんまり見かけない。殊に、かういふものは、欲しくつても、欲しいやうな顔をしたがらない日本人のことであるから、政府もうるさくなくていいだらう。
 藍綬褒章とか、緑綬褒章とかいふものは、勲章の部類にはひらないと聞いてゐるが、文功章とやらはどつちの部類か。同じ勲章でも、金鵄勲章は軍人に限り、戦時に殊勲を樹てたものに賜はるといふので、一番有難味があり、その上、年金までつくのだから、軍人でこれを欲しがらないものはない。
 金鵄勲章は武功章であるから、それに対する文功章は、芸術家にして、業績赫々たる者に賜はるといふことにすれば、世は競つて傑作逸品を出すことになり、一国の文運頓に熾んとなるわけで、これに越したことはないが、文功は、かの武功の如く、「誰のため」に樹てるといふ性質のものではないから、標準の定め方に困るだらう。まして、暗夜、道に迷ひ、方角を誤つて敵陣に飛び込み、敵の方であはてて逃げてくれたので、一堡塁をなんなく占領してゐたなんていふ殊勲は、芸術家には絶対に樹てられさうもない。
 そ
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