欠伸の出るやうな話もあるけれど、二十分といふのはきつとすべての人間の雄弁能力の平均を云つたものだらう。なかには五分で恰度いい人もあるし、三時間しやべらせても面白い人もあるし、平均二十分といふのが、日本人の雄弁の平均点らしいですね。
 僕は、いつか放送してね。今の二十分といふことを云はれて、だいたい脚本を書くときに一枚一分といふ見当です。そのつもりで、二十枚書いて行つたのです。時計を見ると、原稿五枚ぐらゐのところでもう、十分過ぎてゐるのです。これはいかんと思つて、ひよつと飛ばして、しまひの処をなんとか繋ぎをつけて話し終つたのです。時計を見ると十七分です。少し早過ぎたな、と思つてゐたが、アナウンサーが出て来ない。人を閉ぢ籠めたまま出て来ない。それから僕は、そツと外を覗いてみたら誰もゐないでせう。仕方がないから外へ出たです、中にゐると呼吸《いき》が詰りさうだから。すると、アナウンサーが飛んできて、失礼しましたといつて、済んだといふことを放送したのです。僕は、なんでもなく家へ帰つたら、家では大騒ぎなんだ。僕の話が途切れてアナウンサーが出ないでせう。僕が卒倒したと思つたのです。眼に見えない想像で
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