のであります。一つは、平衡を失つた自尊心。即ち、人がどう思ふかといふ懸念、自分の眼でたしかにものを見、自分の判断で行動しようとしない附和雷同性の原因。
一つは、習慣性になつた競争心理、人を押しのけて前へ出ようとする性急な粗暴な言動。
もう一つは、思考力の凝結とでも云ひますか、或ることを考へると、もうそのほかのことは考へられなくなる傾向。従つて、いろいろな現象を自分の都合のいい結論へ引つ張つて行き、とにかくその場を切りぬける便宜主義であります。この三つの現象を別の言葉で云へば、人間が人間の本性から遠ざかつて、機械と獣に近づくといふことであります。
これらの傾向は、既に政治的な大きな結束力によつて、現在国民の足並を乱させるに至らず、当面の戦争といふ目標には、さしたる不都合もなく、個人的な問題として看過される場合があります。
ところが、かういふ心理的傾向は、徐々にではありますが、先づ社会現象として、国民の能率を低下させ、活動力をすりへらします。生活に対する疲労倦怠と国民体位の下落もその最も大きな結果であります。またそれが、国民の文化的教養の程度といふかたちで示されると、風俗の混乱、意
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