志表示の貧しさ等になるのであります。さてさうなると、これは必ず側面の敵をして乗ぜしめる絶好の機会なのでありまして、殊に、直接には敵に有利な宣伝の具を与へ、徐々にわが国内を紛糾に導く手がゝりに利用され、われわれの遠大な理想を冷然と揶揄する口実を捉へしめるのであります。
 そればかりではありません。かゝる傾向が国民の上層部まで浸み込んで行く結果は、長期建設の途上、必ず、わが国民への他民族の軽侮、不信といふ形で表れて来ます。敵性を示す国々の軽蔑はまだこれを懲らしめる手段がありますけれども、われわれに手をさしのべる民族の不信は、どうしてこれを取返すことができませう。
 われわれの生涯に於てはなほこれを忍ぶとしても、われわれの子孫後裔をかかる境遇に投げいれることは、これを黙視し得ないのであります。
 日本の光栄は、私ども、祖先からこれを受けつぎ、更に、子々孫々に伝へなければなりません。
 過去七十年、わが日本は、まことに、非常時につぐに非常時を以てしたと云はねばなりませんが、この歴史は、所謂国力の発展といふ一語に尽きるでありませうか? われわれ国民の生れ育つた時代は、実に、私のいふところの非常時
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