、その職能に応じて、国防国家建設の一区処を受けもつべきであることを自覚しはじめました。
しかし、私の見るところでは、現在の政治が文学に求めてゐるものは、或は愛国心の鼓舞とか、国策の宣伝とか、健全な娯楽の提供とか、少し大袈裟なところでは、民族理想の昂揚といふやうな方面に限られてゐるやうであります。更に、文学を含めての文化政策としては、思想戦への参加といふことも唱へられてゐますけれども、その思想といふ言葉の意味が狭い政治的な範囲に止まつてゐるやうに思はれます。
私は、こゝで、国防国家建設といふ極めて特殊な時局的表現を用ひましたから、かゝる国民的事業への邁進を、軍隊の戦闘行軍に譬へ、文学のこれに応ずる任務を大体二つに分けて考へてみたいと思ひます。
即ち、第一は前衛的任務、これは読んで字の如く、前方の敵に備へて、本隊の進路を開き、その行軍並に戦闘準備を容易ならしめる先駆部隊の任務です。日本でも嘗て左翼文学が盛んであつた頃、これに属するある団体が自ら称して前衛と名乗つたことがあります。前衛座といふ劇団もできました。しかし、この言葉が文学、芸術で用ひられたのは、これが最初のものではありません
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