れの民族、それぞれの国家が、その発展途上に於て示した最も輝かしい旗じるしでありました。それは、ただ単に、人間の研究とか、人生への考察とか、現実の批判とかいふやうな、云はゞ、世界を通じての真理追求に終始してゐるのではありません。東西古今の文学者は、常に、自己の属してゐる民族の希望と、苦悩と、時代の運命について、それぞれの立場からその代弁をつとめてゐるのであります。
しかしながら、時に、或る作家は、沈黙を守らねばなりますまい。沈黙を守ることが国民としての義務だといふ場合もあり得るのであります。かういふ作家の良心は信じなければなりません。けれども、公然発表され得る作品について云へば、それらの作品は、それが文学と名のつく以上、狭い意味での政治的な意図を含まないまでも、広い意味に於る国民生活の推進力とならなければならぬと信じます。なぜならば、文学こそは、国民生活の、最も深い理解者であり、人間としてのわれわれの感情、意志、行動の監視者であり、批判者であり、そして屡々その誘導者であるからであります。
七
今日の政治は、既に文学に多くのものを求めてゐることがわかります。文学者も亦
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