の問題が含まれてゐるのであります。

       二

 国家総動員とか、国民精神総動員とか、日本的全体主義とかいろいろな言葉で云はれてゐることが、国民一人一人の頭にぴんと来なければならぬのに、まだまだ、それが理想的な形で表れて来ない。観念としては、もうそんなことは云ふ必要のないほど、国民の心もちは一方に向つてゐるのであります。
 例へば文化統制といふことが、しきりに行はれてゐる。これには先づ新しい政治理念を基礎づける思想をもつてのぞまなければなりません。ところが、思想そのものには、深い浅い、強い弱いがあります。また、道徳的に善悪優劣も論じられるのでありますが、絶対の価値を観念的な言葉に結びつけることは考へものである。云ひかへれば、思想は、思想そのものゝ論理的表現に価値があるのではなく、その思想の生きてゐる姿、即ち、いかなる人物によつて、いかにそれが人間の声として放たれてゐるかといふところに、価値の大部分がかゝつてゐるものであります。
 私は、現在の日本に、かゝる思想の出現を望みますが、それと同時に、かゝる思想を時代的に盛りあげて行く力を、文化的な仕事に従事してゐる知識層の教養と情熱
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