と思ひます。
フランスでも十八世紀になりますと、王室と教会の権威が衰へて、自然、言葉を統制し、保護する一つの中心がなくなりました。その上、例の戦乱が続き、民衆は窮乏し、科学の発展に伴つて色々の新しい言葉が生れて来る。外国との交渉が盛んになる。そんなことで、フランス語は一時また文字通り混乱しました。事実上混乱しましたけれども、十七世紀にはつきり植ゑつけられた、或はその以前から民衆の中に芽生へてゐた言葉に対する関心、言葉に対する一つの正しい観念が、この十八世紀の言葉の混乱時代を通じて、尚ほかつ自国語を純粋にと無意識ながら守りつゞけた努力が見られます。彼等フランス人は、自国語の誇りを傷けないだけの素地を作つてゐたのです。事実さう云ふことを直接声明し、或は仕事の上で見せた人達が十八世紀に沢山生れてをります。従つて、フランス語が前世紀に於いて一時非常に単純化されたのが、十八世紀に至つて、偶々非常に混乱はしましたけれども、その結果は、更に、国語を豊富にすることに役立つたといふ面白い現象がみられます。例の百科辞典の編纂は、かういふ時代が要求したひとつの国民的運動であるといふことにもなる。この時代は
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