非常に苦心を払ひましたけれども、やつと十七世紀の終りになつて初版を出し、さうして今日迄八回それが改修されてをります。一九三一年から三四年にかけて現在のアカデミーの会員の手に依つて第八版が出てゐる。それで今日までフランスに於いて標準になる言葉はアカデミーの辞典に依るといふことが先づ常識になつてをります。何かお互の言葉遣ひについて疑問が起ると、結局アカデミーの辞典に解決を求めるといふことが現にフランス人の間で行はれてをります。アカデミーの辞典にさうあるなら、さうして置かうといふ程度にはなつてをります。やはりこのアカデミーの編纂員の一人だつたと思ひますが、ヴォオジユラといふ人は、フランス語についてかういふことを言つてをります。「言葉の主人《あるじ》といふものは唯一人だ。即ちそれは慣例だ」慣例= usage =一般に用ひ慣れた言葉を標準にする以外に言葉を純化する有効な手段はない。従つて誰かが作り出し、誰かが決めた言葉を一般に使はせようとすることは絶対に無理なことだ。さういふはつきりした標準を持つてゐたやうであります。それともう一つは、アカデミーのこの規格は完全に宮廷の中で守られてゐた。従つてア
前へ 次へ
全26ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング