性格も非常に変つて来た。そればかりでなく、在来の職業といふ観念には、どうかすると当てはまらない職業の数々が新しく生れる傾向すらあるのである。
ある会合で話にも出たのだが、今日でもなほ、「月給取り」(サラリーマン)といふ言葉があり、これは、恰も、一つの職業を指すかの如き印象を与へる言葉となつてゐるが、こんな不思議なことはないといふのである。勤め人と云へばそれでもいくぶん穏かのやうであるが、これすら、凡そ、職業の精神を閑却した無意味極まる名称である。
いつたいに、職業を選ぶ標準なるものが、従来、極めて曖昧であつて、なかには、公然と口にできないほどの「さもしさ」が、公然と許されてゐる場合さへあつた。
さうでなくても、職業そのものゝ実体を究めずして、職に就くものが多く、まして、自分の前途にどんな道が拓かれてゐるかを、一応、ひろく見渡すといふことすらされてゐなかつた。さうかと云つて、昔のやうに、父親の職を継ぐといふことを当然と考へる時代は過ぎてゐた。従つて、職業に対する興味と熱意と、殊に、責任感が至つて薄く、自己の職業の国家的乃至社会的使命について、確乎たる信念をもつものは、誠に寥々たる有
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