あります。殺風景も忍ぶべき時には忍ぶべきでありませう。しかし、それが常態となることは、結局、人間の退化であり、堕落であります。それなら、品物の文化価値とはどういふ形で現れるかと云へば、さつき云つたとほり、おほむね道徳性、科学性、芸術性の三つの形で現れます。品物の道徳性とはちよつと説明が困難ですが、一番わかりいいのは、つまり、まやかしものでないかといふこと、俗に云ふ、「インチキ性」がないかどうかといふことです。「ちやちな」といふ言葉がありますが、これは一方道徳的な意味もあると同時に、寧ろ、科学性の低い、技術的に幼稚、或は粗雑なものを指すので、やはり、利用価値から云つても問題にならぬことを示してゐます。更に、「ちやちな」ものは、美しいといふ点から落第点がつけられませう。物の美しさは、それが一つの用途をもつものであれば、きつと、その精巧さと比例し、使ひよく丈夫で永持ちのするものなら、形と云ひ艶と云ひ、申分のない美しさを発揮してゐるに違ひありません。才能のある職人の心がそこに籠つてゐるからであります。そして、さういふ品物は、どことなく気品があり、重みがあり、凜然としたところがあります。そこに、
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