みてもうなづかれると思ひます。更に、人間の理想として永久に追ひ求める真、善、美は、また、この三つの「文化」の面に符合するわけであります。
たゞ、この三つの要素は、飽くまでも、不即不離の関係になければなりません。このうちの一つだけが完全に備はつてゐるといふやうなことは、事実あり得ないばかりでなく、またさういふ風に見えることは、「文化」の歪みであり、不健全な状態であります。
例へて云へば、道徳的にみて正しい人物と仮りに折紙をつけられるやうな人物でも、往々、物の考へ方が偏狭で、味もそつけもなく、判断が軽率で、常識さへも疑はれるといふやうな半面をもつてゐたりするのは、少くとも、「文化」といふ点からみれば、明らかに不具者と云はなければなりません。また、芸術家乃至は芸術に親しむ人でありながら、道徳的には無軌道であつたり、学問を軽蔑し、殊に科学を敵視しすぎたりするのは、これまた褒めたことではありません。
品物について考へてみても、物の利用価値といふことはもちろん第一に計算に入れなければなりませんが、あまり実用本位といふことにのみ気を取られ、文化価値を全く閑却したものは、いはゆる殺風景となるので
前へ
次へ
全47ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング