ないかどうか、心深いところまで見きはめられてゐるかどうか、これが一つ。第三には、美しいか醜いか、言ひ換へれば芸術性の高い低いであります。美しさにもいろいろありますが、ほんたうに美しいものは、自然を除いては稀であります。人情の美しさは道徳的とも云へますが、道徳を超え、道徳では律せられぬ美しさが、人間の精神のすがたと働きのなかには往々にしてあるのであります。これを発見する眼はむろん必要であります。芸術的な眼とでも云ひませうか。物の美しさも、その人の眼の高さによつていろいろに映り、それほど美しくないものを非常に美しいと思ふのは幼稚な感覚をもつてゐるといふことになります。反対に、人の気のつかないやうなもののうちに、すぐれた美の要素を認めるのは、その人の心の窓が「美」に向つて大きく開かれてゐるからです。しかし、およそ感覚、感情を通じてうつたへる美しさは、特別のものを除いて、万人の胸にひゞくものであり、その美しさの程度は、「文化」の一つの標準と考へるべきであります。
道徳性、科学性、芸術性、この三つの性格は、文化を形づくる主な内容であることは、人間の活動が、知、情、意の三つの働きに帰することから
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