を満たしたものと云ふかも知れません。時代の風潮といふものは恐ろしいもので、合理的とは簡便第一であり、趣味的とは伝統を忘れて感覚の刺戟を追ふことだつたのであります。

[#7字下げ]七[#「七」は中見出し]

 こゝで、私は、文化の水準をはかる尺度について一言したいと思ひます。前に述べた、能率、健康、品位は、国民生活そのものの、正しい体制を整へる目標でありましたが、今度は、ひろく「文化」の価値標準を、どこに目安をおいて測つたらよいかといふ問題であります。これは、人間一人々々についても、あらゆる物件のひとつひとつについても同様のことが云へると思ひます。それは、ごく大ざつぱな、常識的な考へ方でありますが、先づ、人なり物なりの道徳性といふことが一つ、国体に憚るところはないか、人道に適つてゐるか、邪《よこしま》なところはないか、神を畏れぬ不逞なところはないか、仮面をかぶつてはゐないか、つまり、道徳的にみてどうであらうかといふ標準であります。それから、その次は、科学性とでも云ひますか、知的にみてどうかといふ標準であります。理窟に適つてゐるかどうか、物の考へ方が正確であるかどうか、頭が一方に偏してゐ
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