やうな醜い、痛ましい光景がくりひろげられてゐるといふ事実とによつて、人類の進歩はおろか、むしろ、人間が物質の奴隷になつてゐる状態が誰の眼にもはつきりして来たのであります。
もともと、「文明」とはさういふものではない筈です。文明国と云へば少くとも進歩した国家としてのあらゆる条件を具へ、その道徳も法律も風習も高い人間的価値を標準として世界に通じるものをもつてゐる国でなければなりません。真の文明は、いはゞ、「文化」の技術的なあらはれとも云へるのでありますが、今申すとほり、西洋文明の今日までのすがたは、形を整へるに急で、その精神がお留守になつてゐたといふよりほかありません。それといふのも、その精神が確乎たる民族の歴史の上に築かれてゐなかつたからで、徒らに、宙に浮いた、人類の理想とか進歩とかいふお題目に捉はれながら、その実、個人の欲望を満たすことにのみ汲々としてゐた結果であります。
わが国に於ても、明治維新この方、久しい鎖国の方針を改め外国の文物をどしどし取入れることにしたのでありますが、これは畏れ多くも、明治大帝の聖慮により、広く知識を世界に求めようとする朝野の一致せる努力でありました。そ
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