としての大理想があります。国民のすべては、その全人格と全生活とをあげて、この大理想に向つて邁進しなければなりません。そこには、個人々々の生活の理想といふやうなものを遥かに超えた、いはゆる八紘一宇の生活の理想があります。日本の文化は、即ちこの精神に根ざし、この精神を活かし、更にこの精神を大きく伸ばして行く全国民の信念と情熱と叡智とから成り立つのであります。
 一方、西洋の近代文化は、「文明」といふ別の名で世界を風靡しました。この「文明」といふ言葉は、意味の上では、「文化」よりもやゝ具体性をもつてゐて、かの野蛮とか未開とかいふ言葉の反対を指すのでありますが、実際は、科学の発達を極度に伴ふものであつた結果、それは、文字通り機械文明と云はるべきものであります。しかも、その「文明」の目標とするところは、概ね個人の幸福を基礎とする社会生活の円滑化にあつたと云へるのでありまして、かゝる理想は、理想そのもののうちに矛盾を含み、結局は、自由競争の名の下に、世界を動乱に導くことになつたのであります。人間の欲望にはきりがないといふことと、表面は便利で楽しさうに思はれる生活も、その裏をのぞくと、見るに忍びない
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