い、或は、芸術がない、といふこととは違ふので、芸術の要素はあるのだけれども、それが程度として低いことを指すのであります。つまり、美を目指して、美の最下部、即ち、マイナスの領分に安住してゐることです。わかり易い例は、無用の装飾がその一つであります。更に、醜い細工がさうです。世間はこれを案外歓迎するものと見えて、商品の大多数はこの手のものと云つて差支へありません。少し凝つた住宅や、旅館、料理店などにこの例がなかなか多く、婦人の衣裳は大部分さうだと云つてもいゝくらゐです。芸術家と称せられる専門家の作品にさへ、たまたま、売らん哉の似而非芸術品があることももちろんであります。
 これは、「美意識」の低さによる「卑俗な」風俗の横行でありますが、同様に、「科学的」幼稚さから生れる「卑俗な」習慣といふものも考へられます。迷信の如きがそれであります。
 しかし、かういふ風に、道徳、芸術、科学と三つの角度から「卑俗さ」の本質をしらべてみましたが、これは強ひて分ける必要もなく、また、それは可なり無理なことでもあるに拘らず、一応解りやすいやうに、分析を試みたに過ぎません。それゆゑ、これだけではまだ、「卑俗さ」
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