あります。
[#7字下げ]五[#「五」は中見出し]
さて、こゝで私は、「品位」を最も傷つける「卑俗さ」といふことについて一言しなければならなくなりました。
「卑俗さ」といふことは、読んで字の如く、「卑しく俗つぽい」ことで、もちろん、「高貴な」精神と相容れないものです。しかし、「高貴な」と云つても、それぞれ程度があり、その現れ方もいろいろでありますから、一般の水準を示すことは容易でありません。とにかく、人間として、どんな場合でも保たなければならぬ「品位」といふものがあると、私は信じるのですが、その「品位」を傷つけ、心あるものの顰蹙を買ふやうな調子が、若し、その人間の無意識の言動のうちに認められ、しかも当人は却つて、さういふ調子に満足を感じてゐるかの如くみえたならば、それは、きつと、何時の間にか「卑俗な」趣味に捉はれ、または、「卑俗な」精神に蝕まれてゐる証拠であります。
「卑俗さ」は必ずしも、「粗野」と一致はしません。従つて、一見巧緻を極めた技術的表現のなかに、往々、「卑俗さ」の限りを尽したといふやうなものがみられるのです。都会の風俗や、芸術の名を冠した様々の作品にその例が多いことで
前へ
次へ
全47ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング